相続したマンションを売却する場合、場合によっては名義変更が必要です。納める税金に関しては通常の売却とほぼ同様ですが、相続の場合に限って適用できる特例もあります。
スムーズな売却を進めるために、基礎知識を一通り把握しておきましょう。
まずは基礎知識を把握することが大事!
相続によって親から取得したマンション。
「使い道がない」「遠方にあるので管理が面倒」といった理由から、活用しないままになっているケースも多いことでしょう。
今後も使う予定がないのであれば、放置しておくのは得策ではありません。
時間が経つごとにマンションは傷み、資産価値は下がってしまいます。いざ売ろうと思ったときには、想定以上に査定額が下がっていることも考えられます。
使う予定がないのなら、少しでも資産価値が高いうちに、売却を考えるのも有効な方法です。
また、相続したマンションに以前から故人と一緒に住んでいて、老朽化によって住み替えを検討するケースもあることでしょう。売却のタイミングによっては、税金が抑えられる特例を受けることもできます。
逆にタイミングを逃せば、特例を受けることができません。知らないまま過ごして損をしないよう、知識をつけておくことが大切です。
相続したマンションの売却に関して、特にポイントになるのが、「名義変更」と「税金」の2つです。それぞれに関して、詳しい内容や必要な手続きなどを見てみましょう。
名義変更が必要なケースとは?
相続したマンションを売却する前に、まずは誰の名義になっているのかを調べましょう。
もし故人の名義のままになっているなら、まずはマンションを相続した人に名義を変更する必要があります。
相続によって名義を変更することを、「相続登記」といい、法務局に「所有権移転登記申請書」などの必要書類を提出して申請を行います。
法律上では、いつまでに相続登記を行わなければならないという決まりはありません。
そのためマンションを相続しても、名義が変わっていないケースが多々存在します。中には「亡くなった父親の名義のままで、マンションを相続した息子が住んでいる」というケースもあります。
故人が売主になることはできません。たとえ相続して住んでいたとしても、故人名義のままでは売却することはできません。
相続したマンションを売却すると決めたら、まずは誰の名義なのかを確認しましょう。必要な場合は、早めに相続登記の手続きを行うことをおすすめします。
なお、マンションの相続に関しては、夫名義や親名義のものを一人で相続したり、複数人で相続して共有名義にしていたりするケースが考えられます。
共有名義の場合、売却する際には全員の同意が必要だったり、売却の契約の場面で全員が集まる必要があったり、やや売却の手続きが異なります。
詳しくは、後ほど「マンションの相続人が複数いる場合は?」の項で解説します。
相続登記で知っておきたいポイント
マンション売却に際して欠かせない「相続登記」に関して、気になるポイントを見てみましょう。
1. 相続登記は自分でできる?
相続登記は、基本的には相続人自身が行うことができる手続きです。ただし、用意する書類が複雑で、なおかつ不慣れなために、時間や労力がかかる可能性があります。
そのため手続きをスムーズに進めるために、登記の専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士に手続きを依頼すれば、当然ながら費用が発生します。ただしその分、時間や手間を省くことができます。状況に応じて、自分自身で手続きを行うのか、専門家である司法書士に依頼するのかを決めましょう。
司法書士の費用は、事務所によって異なります。インターネットで「相続登記+司法書士+〇〇(地名)」などと入力すると、複数の司法書士事務所が見つかるはずです。複数の事務所から見積もりをとって、比較することをおすすめします。
2. 手続きの場所や大まかな流れは?
続いて、相続登記を行う場所や大まかな流れについて見てみましょう。
相続登記の手続きは、売却を考えているマンションを管理する法務局にて行います。法務局は全国にあり、所在地の一覧が法務局のホームページに掲載されています。
ご自身で手続きを行なう場合は、管轄の法務局がどの位置にあるのか、まずは確認しておきましょう。
相続登記の手続きの大まかな流れは、次の通りです。
1)必要書類の収集・準備
2)登記申請書の作成
3)登記申請
4)登記完了
それぞれについて詳しく見てみましょう。
1)必要書類の収集・準備
相続登記に必要な書類は、相続のパターンによって異なります。
ポイントとなるのは、「マンションを相続する相続人が、どのように決まったか?」という点です。どのように決まったかについては、大きく分けて次の2つがあります。
- 故人が遺した遺言書によって決まった
- 相続財産の話し合いである「遺産分割協議」によって決まった
それぞれのケースの必要書類は次の通りです。
遺言書による場合
- 故人の死亡記載のある戸籍謄本
- 不動産を相続する相続人の戸籍謄本
- 不動産を相続する相続人の住民票
- 不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
- 不動産の固定資産税評価証明書
- 遺言書 など
遺産分割協議による場合
- 故人のすべて(出生時~死亡時)の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 不動産を相続する相続人の住民票
- 不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
- 不動産の固定資産税評価証明書
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書 など
相続登記の手続きを司法書士に依頼する場合は、これらの書類の他に、委任状も必要です。
ただし基本的には、委任状は司法書士が作成してくれますので、委任状が必要であることだけを頭に入れておけば十分です。書式や書き方を詳しく知る必要はありません。
2)登記申請書の作成
相続登記の手続きにおいて、必要書類の収集や準備が終わったら、次は登記申請書の作成にうつります。登記申請書は、法務局のホームページからダウンロードして使うことができます。
なお、登記申請書は複数あります。相続登記を行う場合は、「所有権移転登記申請書(相続)」と書かれたものを使いましょう。
さらにどのような形でマンションを相続したかによって、次の通り使う様式が細かく分かれています。
- 公正証書遺言
- 自筆証書遺言
- 法定相続
- 遺産分割
遺言書の内容に従ってマンションを相続した場合は、さらに遺言の種類によって「公正証書遺言」「自筆証書遺言」の2つに様式が分かれています。該当するものを選びましょう。
民法で決められた取り分に従ってマンションを相続した場合は、「法定相続」の様式を使います。相続人同士の話し合いによってマンション相続が決まった場合は、「遺産分割」の様式を使いましょう。
詳しい記入の仕方は、様式と一緒にダウンロードできる「記載例」の中に書かれています。併せてダウンロードして、必要事項を記入しましょう。
3)登記申請
必要書類や申請書が準備できたら、次は法務局への登記申請を行います。
自分自身で手続きを行う場合は、売却を考えているマンションを管轄する法務局に提出書類を持って行き、窓口にて手続きを行います。
必要書類の提出は、郵送でも可能です。ただし必ず封筒に「不動産登記申請書在中」と書き、万が一のトラブルを考慮して、書留郵便で送ったほうが安心です。
4)登記完了
必要書類の提出が終わったら、後は登記完了を待ちましょう。完了までにかかる期間の目安は、申請から約1~2週間です。
登記完了後は原則として、12文字の数字とアルファベットを組み合わせた「登記識別情報通知」が交付されます。
登記識別情報とは、従来の登記済証(権利証)にかわって発行されているもので、いわば「不動産の所有者だけが知っているパスワード」です。第三者に知られないよう、厳重に管理しましょう。
3. 相続登記にかかる費用
相続登記を行うためには、費用が発生します。相続登記にかかる費用は、主に次の2つです。
- 登記に際してかかる税金である「登録免許税」
- 司法書士の費用(手続きを依頼した場合のみ)
登録免許税の金額は一律ではありません。マンションの固定資産税評価額がいくらかによって金額が異なり、計算式は次の通りです。
相続登記の登録免許税=固定資産税評価額×0.4%
固定資産税評価額は、毎年1月1日時点の金額が、4月1日より各市区町村役場で取得できます。
たとえば「平成29年4月1日~平成30年3月31日」の期間内に相続登記を行う場合は、「平成29年度の固定資産税評価額」を使用することを覚えておきましょう。
なお、登録免許税を納めるタイミングは、「所有権移転登記申請書」を提出するときです。事前に収入印紙を用意しておき、申請書に貼ってから提出もしくは郵送しましょう。
司法書士の費用に関しては、手続きを依頼した場合のみ発生します。どれだけの費用がかかるのか、依頼時に確認しておきましょう。
別記事(マンション売却にかかる税金のすべて)で、マンションの税金について解説した記事があるので、参考にしてください。
4.マンションの相続人が複数いる場合は?
続いて、マンションの相続人が複数いる場合の相続登記について見てみましょう。
マンションを相続するのは一人とは限りません。
たとえば「父親が亡くなって、兄と弟の二人でマンションを相続するケース」もありますし、「遺言書や遺産分割協議によって相続人がまだ決まっておらず、法律上の権利がある複数の相続人全員の共有財産になっているケース」も存在します。
共有名義のままでマンションを売ろうとすると、全員の同意が必要で、契約の際にも全員が集まらなくてはなりません。手間を避けるために検討する価値があるのが、あらかじめ換価分割しておくという選択肢です。
換価分割とは、マンションをはじめとした相続財産を現金化して、相続人同士で分ける方法のことです。マンション売却においては、相続したマンションを売却して、売却によって得た代金を相続人同士で分け合うことを意味します。
換価分割を行う場合は、売却手続を行う代表の相続人を選びます。そして、選ばれた相続人がマンションを自分の名義にした上で、マンション売却を行います。
トラブルを防ぐためにも、相続人同士の話し合いである遺産分割協議によって、「誰が売却するのか?」「売却代金はどれぐらいに設定するのか?」「いつまでをめどに売却を目指すのか?」「誰がどれだけの割合で相続するのか?」などを決めておくことをおすすめします。
相続したマンションを売却する際の税金
相続したマンションを売却する際、どのような税金を払うことになるのかを見てみましょう。
相続したマンション売却においても、納めるべき税金は、通常のマンションを売却したケースとほぼ同じです。マンション売却に関連して知っておきたい主な税金は、次の通りです。
- 印紙税
- 固定資産税
- 登録免許税
- 所得税
- 復興特別所得税
- 住民税
ただし、すべての税金を納める必要があるとは限りません。
ケースバイケースで、納税義務が発生しないものもあります。
基礎知識を身につけた上で、さらに知っておきたいのが「相続のときのみ関係する税金の知識」です。相続したマンションを売却する場合、次の2つの条件どちらかに当てはまる方もいることでしょう。
- 相続発生から3年10か月以内にマンションを売却する方
- 相続したマンションに、相続前から同居していた方
一定の条件を満たすことで、税金額を抑えることにつながる特例が受けられる可能性があります。以下に詳しく説明します。
1. 相続発生から3年10か月以内にマンションを売却する方
マンションを相続したタイミングから、3年10か月以内という期間内であり、なおかつ一定の条件を満たした上で適用されるのが、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」です。
この特例を使える場合、マンション売却によって利益が出た場合に納める「譲渡所得税」の税額を減らすことができます。
取得費とはその名の通り、「マンションを取得するにあたって要した費用」のことです。マンションを購入したときにかかった必要経費や、その後の改良のためにかかった費用などを、まとめて取得費と呼びます。
主な取得費には、次のようなものがあります。
- 購入代金または建築代金
- 購入手数料
- 設備費
- 購入後の改良費 など
マンション売却によって利益が出て譲渡所得税を納める場合、その金額は「どれだけの売却益が出たか?」によって異なります。
ただし売却益は、売ったことで得た金額をそのまま採用するわけではありません。取得費をはじめ、決められた項目を差し引くことができます。
ざっくり言えば、差し引ける金額が大きくなれば、それだけ納める譲渡所得税の金額を抑えることができるというわけです。
なお、「3年10か月」というのは、特例を使える期限が「相続税の申告期限(亡くなってから10か月後)から3年以内」となっているためです。
違う言い方をすれば、3年10か月という期間を過ぎてしまえば、その他の条件を満たしていても、特例は適用されません。
放置したままのマンションを売却するかどうかを迷っているなら、特例によってどれだけのメリットがあるかを調べ、比較してみるとよいでしょう。
特例を受ける際には、確定申告が必要となります。
まずは要件を満たしているかどうかを一度確認してみましょう。
2. 相続したマンションに、相続前から同居していた方
続いて、「相続したマンションに相続前から同居していた方」に関する特例を見てみましょう。一定の要件を満たせば、次の特例が適用される可能性があります。
- マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
- マイホームを売ったときの軽減税率の特例
まずは要件を満たしているかどうかをチェックしてみましょう。
まとめ
相続したマンションの売却で注意すべきことを、主に「名義変更」「税金」というポイントに沿って見てきました。
相続に関しては、さまざまなケースが存在します。ただし「自分名義に変えないと売れない」という点を、まずはしっかりおさえておきましょう。
税金に関しての重要なポイントは、どの特例が使えるのかを、まずはしっかりチェックしておくということです。
中には「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」のように、「相続発生から3年10か月以内」という期限付きのものもあります。
知らない間にタイムリミットを過ぎて損することがないよう、どの特例が使えるのかを把握しておくことをおすすめします。