マンションを売却するとき、契約から引き渡しまでの間に、天災や火事などが起こり、マンションが壊れたり無くなってしまったりする可能性があります。
このように、売主にも買主にも責任がない場合、契約はどのように扱われるのでしょうか?
すでに契約は成立しているため、売主は買主に代金の請求ができるのでしょうか?
今回は、契約後に地震や火災などが起こり、マンションが滅失・毀損した場合の「危険負担」の問題について、解説します。
なお、「滅失」とは建物がなくなること、「毀損」とは建物(の一部)が壊れることを言います。
危険負担とは?
売主にも買主にも責任がないことが前提
マンション売買を行うとき、契約後、マンションを実際に引き渡すまでの間に、マンションが壊れたり、なくなってしまったりすることがあります。
売主の不注意で火事になったなど、売主に明確な責任があれば、売主は債務不履行となり、買主は契約の解除や損害賠償請求をすることができます。
逆に買主に責任があれば、たとえマンションが毀損していたとしても、売主に対して契約どおり代金を支払わなければいけません。
しかし、天災や第三者によって発生した火災など、売主にも買主にも責任のない事情でマンションが滅失・毀損することがあります。
このように、契約当事者の「どちらにも責任がない事情」で目的物が滅失・毀損した場合にどちらがその負担をするかという問題を「危険負担」と言います。
民法の原則では買主が負担する
売買の場合の危険負担について、民法は原則的に「債権者主義」を採用しています。
債権者主義というのは、目的物の引き渡しを請求する債権者が、危険を負担するという考え方です。マンション売買の場合には、買主が危険負担をします。
契約後、引き渡し前にマンションが地震などで倒壊したら、買主は売主に対して、代金を支払わなければならないことになります。
特約によって売主が負担する
しかし、実際に引き渡しも受けていないのに、代金を支払わなければならないことは、買主にとって非常に酷ですし、過剰な負担と言えます。
そこで、実際の不動産売買契約においては、特約により、買主の危険負担を制限することが普通です。
特約には、以下のようなバリエーションがあります。
「マンションの引渡前、買主と売主双方に責任がない事情で対象物件が滅失したときには、買主は代金支払い義務を負わない」
→ 買主が、代金を支払わなくて良いことを確認している特約です。
「物件引渡し前に、売主と買主双方に責任のない事情で物件が毀損した場合、売主は、物件を修復して買主に引渡す。この場合、修復に必要な期間、引渡しを遅延しても、売主は引き渡しの遅延にもとづく損害賠償を受けない」
→ 売主は、目的物件の修復義務を負います。ただ、修復にかかった期間は、引き渡しの遅延にはなりません。
「売主は、物件修復が著しく困難な場合や修復に過分の費用が必要になる場合には、契約を解除することができる。また、修復をしても買主の購入目的を実現することができない場合または対象物件が滅失した場合には、買主は契約を解除できる」
→ 修復が不可能な場合には売主は契約を解除できます。修復をしても目的を達成できない場合や、目的物件がなくなった場合には、買主からも契約を解除できます。
「契約が解除された場合、売主は、既に受領済の金員を、遅滞なく買主に返還する」
→ 契約が解除された場合、売主が受けとり済の手付金などがあれば、速やかに、無利息で買主に返還しなければなりません。
以上のように、不動産取引の実務では、売主が危険負担をすることが通例となっています。
引渡し後に発生した問題は瑕疵担保責任
それでは、マンションの引き渡し後に、実は欠陥があったという場合には、誰がどのような責任を負うのでしょうか?
たとえば、マンションに雨漏りや腐食、シロアリなどの問題があることが、後から発覚したケースなどです。
危険負担は、目的物の引き渡し前の問題ですから、引き渡しが済んでいる以上、危険負担の問題とはなりません。
また、買主がその問題について知っていた場合や、当然気づくべきであった場合などでは、買主は売主に何らかの請求をすることはできません。知った上で物件を購入しているからです。
これに対し、買主が欠陥のことを知らず、気づかなかったことが当然である場合、買主は売主に対し「瑕疵担保責任」という責任を追及することができます。
売主が注意すべきこと
以上のように、マンション売買をするとき、契約後引き渡し時までの滅失毀損については、基本的に売主が危険負担をします。
そこで、売主は、引き渡しまでの間、負担が発生した場合に備えておくべきです。
まずは、対象物件に火災保険や地震保険などの保険をかけているのであれば、引渡しまで、保険を解約しないことです。
保険を維持しておけば、火災や地震で被害が発生した場合、保険金を修理費用などに充てることができます。
また、手付金を受けとっている場合には、解除によって返還が必要になる可能性があるので、別の目的に流用せず、手元に置いておきましょう。
なお、売主の過失によって損害が発生した場合には、危険負担の問題ではなく債務不履行の問題となってしまいます。すると、買主から「履行利益」(もし契約通りに引き渡しが行われたなら得られたはずの利益。転売利益など。)を請求されて、大きな負担を負ってしまうおそれもあります。
そのようなことのないよう、引き渡しまでは、売主は慎重にマンションを管理することが大切です。