マンションを売却するとき、いったん売買契約を締結しても、事情が変わってどうしても引渡しができないことがあります。
そのような場合、買主に待ってもらうことはできるのでしょうか?
また、売主が引渡しを遅延することにより、買主から契約を解除されたり、違約金や損害賠償、遅延損害金が発生したりするのかも気になります。
今回は、売主がマンション引渡しを遅延した場合の違約金や遅延損害金について、解説します。
マンションを売却したら、決済と同時に引渡すのが原則
マンションを売却するとき、通常は「決済」と同時に、買主に引渡しを行います。決済とは、マンションの代金を全額支払ってもらうタイミングです。
決済前の売買契約を締結した時点で、売主は買主から手付金を受けとっています。そして、残りの代金を決済日に支払ってもらいます。決済日は、買主が残代金の用意ができ、かつ、売主が引渡しの用意ができる日を選定します。
決済日が来たら引渡しをしないといけないので、売買契約を締結する際には、確実に引渡しができる日を確認してから、決済日を決めなければいけません。
決済日にマンション引渡しができないパターン
ところが、売買契約で決済日を決めても、約束通りに決済日に引渡しができないケースがあります。
たとえば、以下のような場合が考えられます。
・ マンション売却を進めている最中に病気にかかり、引っ越しが難しくなった
・ 震災などの天災の影響で、引渡しと転居の準備ができていない
・ 次の転居先の住宅購入が間に合わなかった
・ 次の転居先の賃貸住宅の契約が間に合っていない
特に、2番目の「転居先の住宅購入が間に合わない」パターンは危険です。マンション売却と新居購入を両立てで進めていると、タイミングが合わずにこういった問題が起こることが多いからです。
引渡しが遅れた場合、買主はいろいろな損害を受ける
売主が約束通りにマンションの引渡しができない場合、買主にはいろいろな損害や困難が発生します。
買主が住む場所がなくなる
もっとも大きな問題は、買主が住む場所がなくなってしまうことです。買主は、決済日に入居できるように、以前の住居を処分しているものです。
以前の住居が持ち家なら、売却したり、人に貸したりしているでしょうし、以前の住居が賃貸住宅なら、解約して退去の準備をしています。
それなのに、新しく住むマンションの引渡しを受けられなかったら、買主は行き場を失ってしまいます。
余分な賃料が発生する
買主がマンション引渡しを受けられない場合、以前の住居にとどまる可能性があります。以前の住居が賃貸住宅だった場合には、大家と話し合ってしばらく契約を継続させてもらえることもあります。その場合、延びた分の無駄な賃料が発生してしまいます。
余分なマンション管理費、共益費が発生する
買主の以前の住居が持ちマンションだった場合、明け渡しができないために、売却の話を進めることができなくなってしまうことがあります。すると、所有期間が長くなり、無駄な管理費や共益費が発生します。
新たに借りる賃貸住宅の費用が発生する
以前の住居を出ざるを得ないケースも出てきます。たとえば、以前の住居を次の人に売ってしまった場合や、賃貸住宅で大家さんと契約延長について話がまとまらなかった場合です。
このような場合、買主はしばらく別の賃貸住宅を借りるしかなくなります。すると、無駄な引越し費用や敷金・礼金、不動産仲介業者の費用、家賃が発生してしまいます。
住宅ローンの条件が変わる
買主が住宅ローンを利用する場合、住宅ローンの融資は決済日に実行されます。引渡し(=決済日)が遅れると、住宅ローンの融資実行日もそれにあわせて遅れます。その結果、住宅ローンで適用される金利が変わり、買主の資金計画が狂ってしまうことがあります。
以上のように、マンションの引渡しが遅れると、買主はさまざまな損害を受ける可能性があります。
売主が受けるペナルティ
マンションを約束通りに引き渡せない場合、売主にはどのようなペナルティが与えられるのでしょうか?
契約を解除される
まず、買主から契約を解除される可能性が高いです。マンション引渡しをするのは、売主の義務ですから、引渡しができないと、債務不履行になってしまうからです。
手付金を返還する
契約を解除されたら、契約は当初からなかったことになります。そこで、受取済の手付金は、当然返還しなければなりません。
違約金が発生する
売買契約では、当事者に債務不履行があったときに備えて「違約金」を定めていることが多いです。違約金の相場は、売買価格の10%~20%程度です。
引渡しを遅延すると、買主から契約を解除されるだけではなく、違約金を請求されます。実際に買主に損害が発生していなくても、違約金を請求される可能性があります。
損害賠償請求をされる
先に説明したように、売主がマンション引渡しを遅延すると、買主にはいろいろな損害が発生する可能性があります。
こうした損害は、売主による履行遅滞(マンション引渡しの遅延)によるものですから、買主は、売主に対して、損害賠償請求をすることができます。
売主は、買主に発生した余分な引っ越し費用や賃料等を支払わなければなりません。
遅延損害金が発生する
買主が売買契約を解除して違約金や損害賠償金の支払いを請求するとき、そういった金銭支払いには「遅延損害金」が発生します。
遅延損害金の法定利率は6%ですが、違約金の定めをする場合には、それ以上の割合を定めることができます。相手が不動産業者の場合には14.6%以下となりますが、相手が個人の場合には、それ以上の金利が定められることもあります。
考えられる解決方法は?
マンションの引渡しが約束までに間に合わない場合の解決方法をご紹介します。
買主と話し合って待ってもらう
1つ目の方法は、買主と話し合って、引渡しを待ってもらうことです。
遅延が1ヶ月以内などの短期間で、確実に引渡しができるのであれば、買主に納得してもらえる可能性もあります。
ただしその場合でも、買主に発生した損害があれば、賠償する必要はあります。
賃貸住宅を借りる
2ヶ月以上引渡しが遅延する場合などは、買主と話し合っても、待ってもらえないケースが増えてきます。
その場合は、売主は仮住まいを探して、とりあえず買主に引渡しをすべきです。そうすれば、買主から余分な費用を請求されることもありませんし、契約を解除されて違約金を請求されることもありません。
まとめ
マンションの売却をするときは、いったん売買契約を締結したら、その後「やっぱり引渡しができない」と言っても通るものではありません。買主に対し迷惑をかけるだけではなく、多額の違約金や損害賠償金の負担を負うことになります。
そのようなことのないよう、慎重に手続を進めましょう。