マンションを売却するとき、近くに居住していたら、不動産業者との打ち合わせも簡単にできますし、内覧の立ち会いや契約締結の手続きもスムーズです。
しかし、海外居住などで遠方に居住している場合、簡単に立ち会うことができません。
この場合、どのような方法で契約締結の手続を進めていったら良いのでしょうか?
今回は、遠方のマンションを売却するときに利用できる手続き上の工夫をご紹介します。
契約締結の際には、当事者の出席が必要
遠方に居住している場合でも、マンションの売却を進めることは可能です。
不動産を売却するとき、内覧や条件交渉などの諸手続は、不動産会社に依頼することができるからです。
購入希望者が見つかったら不動産会社を介してやり取りを進め、細かい条件まで合意できれば、いよいよ売買契約を締結することとなります。
ただ、このとき、自分が遠方に居住していると、契約締結の場面に立ち会うことができないので、問題が発生します。
不動産の売買契約を締結するときには、通常は、不動産の売主と買主、不動産会社の3者が立ち会って、用意した契約書に、それぞれが署名・押印することによって、契約書を完成させます。
契約書は、当事者が署名押印をしないと有効なものとなりません。このとき、売買契約書の内容をしっかり確認して、不備や間違いがないかチェックする必要があります。
また、同時に、手付金をやり取りすることも多いです。
手付金とは、不動産の売買契約を締結するときに、売買契約が成立した証として、売買代金の一部を先払いすることです。
いったん手付金を支払ったら、当事者は簡単には契約を解除することができなくなります。
手付金の相場は、100万~数百万円くらいで、物件の価格が高額になると、手付金も高額になります。手付金は現金で支払い、その場で売主が領収証を発行します。
そして、こういった契約の手続きは、通常買主の不動産会社か売主の不動産会社のどちらかの事務所で行われます。
このように、契約を締結する際には、重要な契約書作成と手付金の授受、確認の作業が必要なので、当事者が必ず出席する必要があるのが原則です。
契約書の持ち回り
では、物件の場所から遠くに住んでいて対応ができない場合は、どのように進めていけば良いのでしょうか?
契約のためにいちいち現地に行かなければならないとなると、大変な手間ですし、海外居住の場合などには高額な費用がかかってしまいます。
実はこの場合、売買契約書を郵送することで、問題なく契約を締結することができます。
売買契約書は、最終的に全員が署名押印をして日付を入れたら有効なものとなるので、全員が同時に、同じ場所に集まって作成しなければならない、という決まりはないためです。
そこで、まずは不動産業者に対し、「売買契約を郵送で行いたい」という希望を伝えましょう。郵送でのやり取りのことを「契約書の持ち回り」というので、「持ち回りで契約書を作成したいです」などと言ってもかまいません。
すると、不動産会社が、契約書を2通買主に渡し(または郵送し)、まずは買主に署名押印をしてもらいます。
次に、不動産会社がその2通の契約書を受けとり、売主に対し、郵送します。
そして、売主が署名押印をして、不動産会社に再度郵送します。
最後に、不動産会社が記名押印すると、契約書が完成します。不動産会社は、完成した契約書を、売主と買主に1通ずつ交付してくれます。
手付金については、振込によって対応します。あらかじめ、手付金の金額と振込先を決めておき、買主が契約書に署名押印するタイミングで、定められた入金先に振込を行います。
入金先は、売主が指定して、不動産業者に伝えておくと良いです。
売主は、この手付金の入金を確認してから契約書に署名押印することとなります。
契約書の持ち回りによって売買契約が成立するタイミングは、売主が契約書に署名押印をしてポスト投函したときか、不動産会社に手渡ししたときとなります。
代理人による契約
契約書の持ち回りによって契約をしようとしても、買主側が躊躇することがあります。
持ち回りの場合、買主側が先に署名押印することとなるので、その時点で契約が成立しないことが不安であったり、手付金を先払いすることになることに不安を感じたりするためです。
そういったケースでは、契約書の持ち回りによっては契約を締結することができないため、別の方法を考えないといけません。
別の方法として考えられるのは、代理人によって契約を行う方法です。
契約書は、代理人によって作成することも可能なので、代理人が契約書作成の場面に出席して、売主本人の代わりに契約書に署名押印をすることができます。
この方法は、「署名代理」という方法で、法律上も有効です。
代理人を使って契約を行うときには、売主は代理人に対し「委任状」を交付する必要があります。
委任状とは、代理人に何らかの法律行為を委任していることの証明書です。
「不動産売買契約の締結を委任します」と記載して、売主自身が署名押印しなければなりません。
実務上、このとき使う印鑑は実印である必要があり、印鑑証明書も添付します。ただ、委任状の書式自体は不動産会社が持っているので、自分で作成する必要はありません。
売主としては、署名押印だけをして印鑑証明書を添付したら足ります(海外居住の場合、印鑑証明書がないため「サイン証明書」という証明書が必要です)。
そして、売買契約当日には、指定した代理人に出席してもらい、売買契約書への署名押印と手付金の授受を行ってもらうことになります。
当然のことですが、代理人がした行為の結果は、委任者が対処することになります。
もし代理人が、期待していたことと違う行動をとった場合や、トラブルになった場合などには、代理人ではなく本人が対応しなければいけません。
そこで、不動産の売買契約という重大な手続きについての代理は、信頼できる人に依頼することが必要です。
代理人は誰が適切?
以下では、代理人としてどのような人が適切なのか、よくある例を3パターンご紹介します。
1.親族
代理人としてよくあるのが、親族です。たとえば海外居住の場合、日本に居住している親や兄弟、子どもなどに代わりに契約に行ってもらいます。
親族は素人ですから、手続きについてはよくわかっていません。
そこで、あらかじめ、どういった手続きで、当日何が行われるのか、どのようなことに注意したら良いのかなど、しっかりと説明しておくことが必要です。
交付した委任状や印鑑証明書は重要書類なので、失くしたり、他の目的に使ったりしないように、しっかり念を押しておく必要もあります。
不備やトラブルが起こって後から問題にならないよう、信頼できるしっかりした人を選ぶことが大切です。
親族が受けとった手付金は、後で振込などの方法で送金してもらいましょう。
なお、親族は、職業として不動産業を行っているわけではないため、親族が代理人になってトラブルが起こっても、責任をとってもらうことは難しくなるお恐れがあります。
2.不動産会社
代理人として、不動産会社を選ぶこともあります。
この場合も、不動産会社に委任状を交付して印鑑証明書を渡したら、不動産会社が代わりに契約を締結してくれます。
不動産会社はプロですから、手続きに不備や問題は起こりにくいです。また、宅建業者としての責任があるので、何かあったときには責任を追及しやすいです。
3.司法書士
売買契約締結の代理人として、司法書士に依頼することも可能です。
司法書士は、不動産登記や契約書作成などの法律業務の専門家です。
司法書士は売買にもとづく不動産の名義変更登記をおこなうので、売買契約の決済時に手続を依頼することになるのですが、中には不動産登記のみならず、売買契約締結からの手続き一切を請け負っている司法書士事務所もあります。
そこで、そういった司法書士に対し、委任状を交付して、売買契約の契約手続きを任せることができます。
司法書士であれば、職務として責任をもって手続を代行してくれるので安心です。何か不備があったときの責任追及も容易です。
以上のように、遠方に居住していても、売買契約の締結の手続を進めることは可能です。
いくつか方法があるので、今回の記事を参考にして、上手に売買契約の手続を進めましょう。