マンションの売買契約において、売主は買主から手付を受け取ります。
では買主が購入をキャンセルする場合や、逆に売主が売却をキャンセルする場合、手付はどうなるのでしょうか?
トラブルを未然に防ぐためにも、手付と手付解除について知っておきましょう。
マンション売買契約における「手付」とは?
手付とは、売買の契約成立に際して、買主から売主に交付される金銭等のことです。
よく勘違いされていますが、手付は売買代金の一部ではありません。契約締結時に買主が売主にいったん預け、売買代金を全額支払う際に売主から買主に返還してもらうものです。
ただし現実は、「残代金の支払いのときに、手付金を売買代金の一部として充当する」と契約書に謳っていることが多いです。
不動産売買における手付は、通常、「解約手付」とされています。詳しくは後述しますが、解約手付の場合、手付を放棄する代わりに、契約を解約することができます。
手付は、支払いが強制されているわけではありません。ただしマンションの売買においては、基本的には手付に関する記載が契約書にあります。マンションの売買契約を結ぶ際は、契約書の手付の条項にも目を通しておきましょう。
手付の相場は、物件や地域などの条件によっても異なりますが、一般的には物件価格の10%前後です。物件価格にもよりますが、数百万円以上の金銭を受け取ることになると把握しておくとよいでしょう。
契約後のキャンセルもありえます
手付の受け渡しを行った後は、しかるべき手順を経て、マンションの引き渡しへと進みます。ただしまれに、キャンセルが生じる場合があります。
キャンセルは次の通り、買主が申し出る場合と、売主が申し出る場合の2種類があります。
- 買主・・・購入を希望したが、何らかの理由で購入をやめることになった
- 売主・・・売却を約束したが、何らかの理由で売却をやめることになった
どちらの場合も、一度結んだ売買契約を解除することになります。その際、すでに授受が行われた手付に関しては、どうなるのでしょうか?
ここでポイントとなるのが、次から説明する「手付解除」です。
手付解除とは?
手付解除とは、手付を払っている場合、手付金を放棄すれば契約を解除できるというものです。キャンセルの理由は問いません。極端な話、気が変わったからといった理由でも手付解除をすることができます。
たとえば買主がキャンセルを申し出た場合、買主の手元に手付は返りません。ただし、それ以上の金銭的負担をする必要はありません。契約不履行を理由に、売主が損害賠償を請求することはできないのです。
ここで注意すべきは、手付の放棄のみで済むのは、「買主がキャンセルする場合のみ」という点です。
売主側がキャンセルを申し出る場合は、事情が異なります。買主保護の観点から、売主側から手付解除する場合は、手付金の2倍の金額を買主に支払わなければならない決まりになっているのです。
とはいえ、いつまでも手付解除ができる訳ではありません。ある時点を超えると、手付解除はできなくなります。
続いて、手付解除ができる期間について詳しく見てみましょう。
いつまでなら手付解除できる?
手付解除ができる期間は決まっています。民法により、手付解除ができるのは、相手方が履行に着手するまでと定められています。
違う言い方をすれば、「相手方が履行に着手した時点」からは、手付解除ができなくなります。履行の着手以降にキャンセルを申し出ると、いわゆる債務不履行となり、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
このように「履行の着手」が分岐点となる手付解除ですが、契約書に具体的な手付解除期日が書かれていることもあります。なぜなら、契約の履行に該当するかどうか曖昧なケースが多く、裁判になることもあるからです。
基本的に物件の引渡しが完了されると、契約が履行されたことになります。むずかしいのは、それまでの期間です。なぜなら立場によって、履行の着手をいつと見るかの判断が変わってくるためです。
売主と買主、捉え方の違い
履行の着手をいつと見るか、売主と買主の間で争われることが多い3つの事例を紹介します。
売主が内装カスタマイズのための資材発注を行った場合
新築マンションの場合、買主の希望により内装のカスタマイズを行うことがあります。通常とは異なる資材の発注を売主がすでに行っていれば、契約の履行にあたると認められることもあります。
売主が抵当権抹消の手続きを行った場合
中古マンションの場合、もし住宅ローンが残っていれば、売主はローンを全額返済して、抵当権抹消の手続きを行います。売主が既に抵当権抹消の手続きを行った場合、契約の履行と認められることがあります。
買主が中間金や内金を支払った場合
マンションの売買においては、手付の後に「中間金」「内金」といった名目で、買主から売主に金銭を支払うことがあります。中間金や内金は、売買代金の一部にあてられるものです。
通常のマンション売買においては、中間金や内金を支払うことはあまりありません。契約時に手付を、引き渡し時に残りの全額を支払うというように、2段階で金銭を支払う場合がほとんどです。
ただし、新築マンションの売買など、契約から引き渡しまでの期間が長い場合は、中間金や内金が発生するケースがあります。買主にとっては、中間金や内金を払った時点を、契約の履行と捉えることもあります。
トラブル回避のために契約書に記載されることも!
ここまで見てきたように、履行の着手をいつとするかは、ケースバイケースです。そのため売主と買主の間でしばしば認識が異なります。
無用なトラブルを避けるために、手付解除ができる期間を契約書に明記することがあります。売買契約を結ぶときは、あらかじめ手付解除の期日が記載されているか否かを、念のため確認しておきましょう。
手付解除の期日が書かれている場合、その期日以降に手付解除を行うと、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
ただし契約から引き渡しまでが短期間(たとえば2週間)の取引の場合、手付解除できる期間が極端に短くなります。そのため、期日の設定が妥当であるかどうかが争われることもあります。
また、そもそも手付解除期日を設定できるのは、売主が一般の人の場合のみです。売主が宅建業者の場合は、手付解除期日を設定できないため、注意が必要です。
手付解除したときの仲介手数料は?
手付解除に関して、手付解除期日の他によく争点となるのが、仲介手数料のことです。
仲介手数料は、仲介という行為に対して支払われる成功報酬です。不動産会社の立場からすれば、契約が成立した時点で報酬の請求権が発生するという認識です。
手付解除は契約成立後に行われます。そのため不動産会社としては「手付解除しても仲介手数料を受け取る権利がある」と考えるのが一般的です。
ところが、売主や買主の一般的な認識は、不動産会社とは異なります。あくまで引き渡しを終えてはじめて、成功報酬が発生するという考えです。そのため、手付解除の際には引き渡しに至っていないため、「仲介手数料を支払う必要はない」と考えるのが一般的です。
手付解除の際の仲介手数料の支払いについては、過去に裁判で争われた事例もあります。現実的には、お互いに落としどころを見つける形で解決することになります。
たとえば、仲介手数料の支払い方法に関して、「契約時に半金、引き渡し時に残り半金を支払う」と契約書に記載されていて、手付解除をした場合。
この場合、契約時の半金のみを不動産会社が取得し、売主(または買主)は残りの半金を支払う必要がない、といったところが現実的な落としどころになります。
ひとたび契約が成立すれば、無事に引き渡しの日を迎えるのが理想です。ただし実際には、突然のキャンセルが生じることもあります。その場合、契約時に支払った仲介手数料の半金は戻ってこない可能性が高いことを、頭に入れておきましょう。
まとめ
売買契約時に受け取る手付は、数百万円もの金額になります。ただし引き渡しを迎えた際には、全額を買主に返還することになります。また、売主都合で売却をキャンセルする場合は、倍額を買主に支払うことになります。少なくとも手付解除期日を過ぎるまでは、手をつけないほうが無難です。
手付も手付解除どちらについても、売買契約書に条件が記載されていることが大半です。契約を結ぶときに丁寧に確認しておくことをおすすめします。