マンションは構造上、上下階の音が響きやすく、騒音が原因でトラブルになることがあります。
もし所有しているマンションの上下階に騒音を出す人がいたら、売却相手にそのことを告げる必要があるのでしょうか?
マンション売却時に告知義務があるのに告知しないと、相手から「詐欺」などと言われて、契約解除や損害賠償等のトラブルが発生してしまうおそれもあります。
今回は、マンション売却の際に、上下階の騒音を買主に告知すべきかどうか、解説します。
告知義務が発生するかどうかは、騒音の程度による
所有しているマンションで、近隣からの騒音が気になっている場合、購入希望者に告知すべきでしょうか?
結論から言うと、気になる騒音があるならば、どのようなケースでも告知すべきです。
ただし、告知しなかった場合に「売主に何らかの法的責任が発生するかどうか」については、騒音の程度によります。
つまり、騒音の告知は、どのような場合でもすべきだけれども、それが法的義務となるのは、騒音が特に酷いケースに限られる、ということです。
法的義務があるのに告知しないでマンションを売却すると、買主から契約の解除や損害賠償請求をされてしまうおそれがあります。
騒音で告知義務が発生するケースとは?
それでは、騒音が発生していて相手に告知義務を負うケースは、どのような場合なのでしょうか?
ひと言で「騒音」と言っても、その内容や程度はさまざまで、感じ方も人によって異なります。比較的大きな音でも気にならない人もいますし、小さな音でも神経質に感じる人がいます。
買主の主観を基準に告知義務を判断することはできません。
騒音が一般社会通念からして、明らかに人の平穏な生活を侵害する程度に至っている場合は、必ずマンションの買主に告知しておかなければいけません。
たとえば、以下のような場合です。
- 上階の子どもが暴れるので、日中や早朝、深夜などに、激しい足音が聞こえる
- 近隣の部屋に毎日長時間にわたってピアノやバイオリンを演奏する人がいる
- 近隣にカラオケ喫茶があり、夜でもそこからの歌声が聞こえる
- 近くに電車が走っており、騒音が激しい
- 階下のテナントがライブハウスで、音がうるさい
- 近くのスーパーマーケットのエアコンの室外機の音がうるさい
特に、騒音を発生させている人と、1度だけではなく、複数回話合いをした経緯があるようなケースでは、告知しておかないと売主の落ち度を問われるおそれが高くなります。
これに対し、多少の音はするけれども、通常一般の感覚において、我慢できる程度のものであれば、わざわざ相手に告知する法的義務まではありません。通常の生活音程度であれば、特に告知する必要はないということです。
法的な問題がなくても、告知はしておくべき
ここまでは、騒音について買主に告げなかったときに売主が法的責任を負うかどうかという観点からの説明でした。
ただ、当初に述べたように、何らかの気になる音があるならば、騒音自体が違法と評価されるほどのものではなくても、買主に対し、必ず告げておくべきです。
騒音は、人によって感じ方がさまざまなので、相手によっては小さな騒音でも非常に苦痛に感じることがあります。
すると、相手からは「瑕疵がある」などと言われて契約解除や損害賠償請求をされてしまうおそれがあります。
小さな音の場合、結果的に裁判をしても相手の言い分は認められないかもしれませんが、そのために大きなトラブルに進展する可能性があることは事実です。
相手の主張が認められず、最終的に、こちらが裁判に勝てるとしても、そのための労力や弁護士費用などもかかってしまいます。
そのようなリスクを避けるためには、当初からの告知が重要です。告知しておいたら、相手が後から、解除や損害賠償を主張することはできなくなります。
騒音問題は必ず仲介業者に伝えておく
マンション売却にあたって気になる騒音があるならば、必ず仲介業者に伝えておきましょう。仲介業者に伝えると、仲介業者の判断で買主に伝えるかどうかを決定します。
このとき、もし相手に伝えなかったとしても、責任を問われるのは、一次的に仲介業者となります。売主としては、仲介業者に告げている以上、当然相手に告げるものだろうと期待していた、と言うことができるからです。
これに対し、もしも、仲介業者に伝えなかった場合には、買主から「売主が仲介業者に伝えなかったから、問題を知ることができなかった」と言われて、売主自身が責任追及されることになります。
騒音トラブルに関する判例
騒音トラブルで裁判沙汰になった事例を具体的に紹介します。
東京地裁の判決(平成24年3月15日)
上階の住人の子どもが室内を激しく歩行して騒音を発生させた事案で、階下の住人が、差し止めと損害賠償請求をしました。裁判所は、階上の住人に対し、原告1人についてそれぞれ30万円の慰謝料と治療費、薬代の支払い命令を下しました。
東京地裁の判決(平成17年12月14日)
マンションの地下にライブハウスがあり、騒音が発生していたために、1階で飲食店を営業していた人の店の売上げが減少し、廃業に追い込まれました。
そこで、1階の人がライブハウスの経営者らに対し損害賠償請求を行ったところ、裁判所は100万円の慰謝料支払い命令を下しました。
以上のように、騒音が原因で実際に裁判になり、慰謝料の支払いが認められた事例もあります。
まとめ
マンション売却にあたり、気になる騒音があるのであれば、包み隠すことなく仲介業者に伝えておきましょう。きちんと伝えておけば、後々トラブルに進展することを防止することができます。
マンションの近隣トラブルは、騒音だけではありません。近隣にゴミ集積場があるなどの問題、ペットの糞尿被害など、さまざまです。
リスクに備えるためには、こうしたすべての問題について、誠実に仲介業者ないし買主に伝えておくことが大切です。