マンションを売却しようとするときには「告知義務」に注意が必要です。
告知義務を怠ってマンションを売却すると、買主から契約を解除されたり損害賠償請求をされたりするおそれがあります。
今回は、マンション売却における告知義務や違反した場合の問題、トラブルを回避する手段について、解説します。
告知義務とは?
告知義務とは、不動産を売却したり賃貸したりするときに、契約しようとしている相手に対し、不動産が抱えている不具合について告げなければならないとする義務のことです。
不動産の不具合のことを「瑕疵(かし)」と言います。不動産に瑕疵があると、その分不動産の価値は低下します。
瑕疵がある物件を売却したいのであれば、相手に瑕疵があることを告げて、その分減額した価格で売る必要があります。
瑕疵があることを告げずに売却すると、相手は購入後に瑕疵に気づき、「騙された」と感じて、売主や仲介業者に対して解除や損害賠償請求をすることになります。
告知義務を負うのは誰?
マンションを売却するときに告知義務を負うのは、売主本人と仲介業者です。
売主の告知義務は、契約を締結しようとする当事者として当然に認められる義務です。
仲介業者については、宅建業法に告知義務(重要事項説明義務)が定められています。
告知義務が必要になる具体的な事例
告知義務が発生するケースは、瑕疵の種類によって、大きく3種類に分けることができます。
1つは物理的瑕疵がある場合、もう1つは心理的瑕疵がある場合、3つ目は法律的瑕疵がある場合です。
物理的瑕疵とは?
物理的瑕疵とは、マンション自体に物理的な欠陥があるケースです。たとえば、以下のような場合です。
- 雨漏りがする
- シロアリが巣くっている
- 立て付けが悪い
- 傾いている
- 腐食がある
心理的瑕疵とは?
心理的瑕疵とは、マンション自体に欠陥があるわけではないけれど、過去にマンション内で自殺などの事件や事故が起こったことなど、購入者が心理的に購入を躊躇するような事情のことです。
具体的には、以下のようなケースです。
- 過去にマンション内で自殺が起こった
- 過去にマンションで殺人や強盗殺人などが起こった
- マンションの近くにゴミ処理上や暴力団事務所などの嫌悪施設がある
- マンションの日照が阻害されている
- マンションの近くに騒音を発生させている施設がある(カラオケ、ライブハウスなど)
- マンションの近くに飲食店があり、臭いによる被害がある
心理的瑕疵については、どこまで告知義務が発生するか、その範囲と程度が問題となります。
一般的には、売却対象となっている室内で自殺や事故が起こった場合に、告知義務が発生すると考えられています。隣室での事故や、マンションで飛び降り自殺が起こった場合などには告知義務は発生しません。
ただし、マンション全体を一棟ごと売却する場合には、隣室や飛び降り自殺などのケースでも告知義務が発生します。
また、マンション内で自殺行為をはかった場合でも、病院に搬送されて、搬送先の病院で死亡した場合などでは告知義務が発生しないと考えられています。売却する部屋内で死亡した場合にのみ、告知義務が発生します。
さらに、マンション内で自殺が起こった場合でも、いったん次の人に売却してしまったら、その後は告知義務がなくなると考えられています。告知義務を負うのは、マンション内で事故が起こったときに所有者だった人だけです。
時の経過によっても心理的瑕疵の告知義務がなくなると考えられています。マンション売却の場合には、だいたい5~6年程度が目途になります。
法律的瑕疵とは?
法律的瑕疵とは、土地に建築制限が課されているなど、法令によって自由な利用ができないケースです。たとえば、都市計画法によって制限を受けており、建て替えや増築ができないケース、土地の分筆ができないケースなどでは、法律的瑕疵があると考えられます。
以下の記事でも告知義務について詳しく説明していますので、参考にしてください。
告知の方法
告知義務を果たすためには、仲介業者から「重要事項説明書」を交付して、買主に理解してもらっておく必要があります。
また、売買契約書の備考欄や特約部分などに「告知事項あり」と記載して、詳細な内容を書いておくか、「物件状況告知書」という書類を作成して、瑕疵の状況を適切に記録しておくようにします。
告知義務に違反するとどうなる?
マンションに瑕疵があるにもかかわらず、買主に告知せずに売却してしまったら、売主はどのような責任を負うことになるのでしょうか?
売主の責任
この場合、買主から不法行為責任を追及されることになります。
不法行為責任とは、故意または過失にもとづく違法な行為により、被害者に損害を与えたときに発生する損害賠償責任です。
不動産の売買契約を行おうとするものは、互いに信義誠実に行動をしなければなりません。このことを、信義則と言います。
告知義務違反は重大な信義則違反の行為で、それ自体が不法行為となると考えられています。平成23年4月22日に最高裁判所がそのような判断を下しています。
告知義務を怠って不動産を売却すると、売主は、そのことによって買主に発生した損害について、賠償義務を負うこととなります。
この場合の損害賠償義務は、瑕疵担保責任にもとづくものより大きくなります。瑕疵担保責任免除特約や、瑕疵担保責任の期間を制限する特約をつけていても、損害賠償をされる可能性があります。
最終的に、買主は売買契約を解除することもできます。
なお、瑕疵担保責任については、以下の記事で詳しく説明をしているので、ご参照ください。
仲介業者の責任 仲介業者にも、同様に損害賠償責任が発生します。
売主が告知義務違反によって不動産を売却すると、買主は、売主と仲介業者に対して損害賠償請求をすることができます。また、契約を解除して代金返還をすることも可能となります。
まとめ
マンションを売却するときに、告知義務があるにもかかわらず買主に告知しなかったら、大きなリスクを背負うことになります。
大きな問題に限らず、ペットの問題や音、臭い、近隣の環境など、小さな問題の不告知が、後から重大なトラブルに発展することもあります。
安全にマンション売却を進めるためには、物件に少しでも気になることがあれば仲介業者に告げておき、買主に伝えることが大切です。
瑕疵を告げると物件の売却価格が低くなるから告げずに済まそう、などと考えると、後で返って大きな損をすることになります。